レフェリー目線での観戦記 〜World Masters Jiu-Jitsu 2015〜

レフェリーとして参加できなくなった今回のワールドマスターズ。
その分、今大会はいつもの遠征以上に、レフェリングに注目して試合を見るようにしていました。

そこで、まずは日本人選手の試合で見られたレフェリングから、気になった点を紹介していきます。


まずは写真の金古選手vsフェリッペ・コスタ戦。

金古さんの試合終了間際の渾身の、
魂のこもったスイープにはシビれました!


まずは、試合序盤の金古選手の引き込みに対して、相手に2ポイントが入っています。
相手は金古選手が座るタイミングに合わせてプレッシャーをかけています。
これは2ポイントを取られても仕方ないです。


そしてラスト1分を切った辺り。
金古選手が上からパスガードのアタックを続ける流れで相手が立ち上がり、すぐに金古選手が引き込みました。

レフェリーはこのアクションに対し、相手に2ポイントを与えました。

ネットやSNSでは「なぜ相手に2ポイントが?」という意見が見られましたが、自分の見解では、このポイントは正当なジャッジです。

なぜかというと、相手のガードを完全に越えて抑え込む前に「一瞬」両者スタンドになり「3秒以内」に金古さんが下になったからです。
結果、相手がパスされていない(つまりガード)の状態からの流れで上下が入れ替わっているので、リバーサルが成立したのです。
逆に言うと、あの時スタンド状態が3秒以上経過してから引き込んでいれば、ガード状態がリセットされてスタンドの攻防に移ったと見なされ、金古さんの引き込みは成立します。この場合、もちろんリバーサルの2ポイントは入りません。

ルールブックには、スイープの説明の中に以下の文章があります。

対戦相手にガードまたはハーフガードをかけた状態で下になっている競技者が立ち上がり、対戦相手を下のポジションにした状態を3秒間維持する
(ルールブック第4条 4.6)


「上の選手が下の選手の足を超えた時点でガードは成立しないのではないのか?」

という意見があるかもしれませんが、それは誤りです。

パスガードとは、上になっている競技者が、下になっている対戦相手のガードまたはハーフガードを超え、対戦相手をサイドコントロールまたはノースサウスポジションで制した状態を3秒間維持する状態を言います。
(ルールブック第4条 4.2)

つまり、足を超えた時点では、まだなんとも言えない状態なのです。
ただし、パスガードのアドバンテージが入ることはあり得ます。

以前からルール講習会で「3秒」ということはしつこく言われてきていましたが、今回のルール講習会でも同様でした。
日本の大会でも、このケースでポイントが入ることがよくあります。
(そしてクレームを受けることも・・・)


この「3秒」については、指導者や選手の皆さんには特に意識してほしいと思います。勝てていた試合を落とすことにもなりかねませんからね。



吉岡選手(ATOS)の初戦は送り襟絞めで一本勝ち。
翌日のセミファイナルに駒を進めて安堵の表情を押さえました。


この試合の序盤、場外際で吉岡選手がガードポジションだった状態でレフェリーが「パロウ」とコール。
その直後、吉岡選手がスイープのアクションを起こし上下が入れ替わりました。

ここでレフェリーは両者を中央に戻し「パロウ」のコール時点の状態にして、吉岡選手に「ファルタ」を宣告、ペナルティーを与えて再開しました。

このペナルティーの意味、わかりますか?

「パロウ」は試合を中断・終了する掛け声です。
(ルールブック第1条 1.4.1)

この掛け声に従わなかったことについて、レフェリーは反則行為とみなしたのです。
同じようなことは国内の試合でも(特に白〜青帯)よく見られますので注意してほしいと思います。


そしてもう一つ。

再び場外際、今度は吉岡選手が上でクローズドガードに入っている状態でレフェリーが「パロウ」のコール。
両者中央で同じ体勢からリスタートとなったとき。
吉岡選手は中央に戻る際、はだけていた道衣を直してクローズドガードに入ろうとしたら、レフェリーは吉岡選手の道衣を再びはだけさせ「ファルタ」をコールしペナルティーを与えました。
(二度目の反則だったため、相手にアドバンテージも入りました)

このペナルティーの意味、わかりますか?

レフェリーは「パロウ」のコールのみで道衣を直す指示を与えていなかったのです。
にもかかわらず吉岡選手が「勝手に」道衣を直したため、中断寸前と同じ体勢から試合を再開させようとするレフェリーの指示に従わなかったと見なされてのペナルティーだったのです。

いかなる理由であれ、レフェリーが試合を中断したときに競技者は可能な限りポジションを変えず、レフェリーの指示を待つ必要がある。
(ルールブック第1条 1.3.6 注釈)

競技者両者の身体が場外に出そうな場合、もしくは両者の身体の3分の2が場外に出て床に留まっている場合、レフェリーは試合を中断し、各競技者の体勢を記録し、中断の寸前に取っていたまったく同じ体勢から、試合場の中央において試合を再開させる。 
(ルールブック第1条 1.3.7)

最終的には一本勝ちだったため、ファルタの回数もアドバンテージも勝敗に影響しませんでしたが、もしポイントもアドバンテージも同点だったら吉岡選手は敗退していたことになります。

国内でも「パロウ」のコールの後、レフェリーの指示無しに選手が道衣を直すシーンはよく見られますので、注意してください。


ここまでは日本人選手の試合で見られたケースを紹介しましたが、最後に幾つかの試合で見られたシーンについて。

場外際でガードもしくはハーフガードのときにレフェリーが「パロウ」をコールしました。
すると上の選手はすぐに離れて中央に戻ってしまいました。
その選手に対して、レフェリーは「ファルタ」を宣告し、ペナルティーを与えました。

このペナルティーの意味、わかりますか?

勘違いしている選手が非常に多いんで、もう一度書きます。
パロウ」は「ブレイク」ではないんですよ。「ストップ」なんです。
(ルールブック第1条 1.4.1)

そして先に紹介した(ルールブック第1条 1.3.6 注釈)(ルールブック第1条 1.3.7)を遂行しようとしたレフェリーの指示に従わなかった行為に対してのペナルティーなのです。


初日の試合の中で「レフェリー目線」で気になったケースをいくつか挙げてみました。

誤解してほしくないのは、これらのケースは今大会から厳しくなったのではないということです。以前からルールブックに書いてあったことなのです。

自分はここ数年、九州のほとんどのJBJJF公式大会および公認大会でレフェリーを務めています。
今までもルールブックに則って試合を裁いてははいましたが、より一層、しっかりとしたレフェリングを行おうと思います。

「地方だからある程度は緩く・・・」とは思いません。

その考えで試合を裁いていると、九州から全日本クラスの大会やアジア・オープンに遠征する選手は、いつもとは異なるレフェリングによって、勝てる試合を落としてしまうことがあり得るからです。

こういうことを書くと、
「あのレフェリーは厳しい」
「頭が固い」
「選手が楽しく試合できるようにしてほしい」
という意見が出てきます。
実際、今までも言われたことやネットに書かれたことがあります(笑)

「厳しい」んではないんです。
「公平に」レフェリングするだけなのです。
そこは誤解していただきたくないところです。

指導者の皆さんはもちろん、試合出場を考えている選手の皆さんは、ぜひ一度ルールブックを読んでいただくことを強くおすすめします。



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